溶接を出来るようになるにはそれなりの時間と経験が必要になります。
実務経験が物を言うとも言い換える事ができますが、個人差がはっきりと出てくるところでもあります。
まずは自分の経験を元にどのようにやってきたかを書き出していきたいと思います。
僕が初めて溶接を経験したのは21才の時、何も分からず「やってみな」の一言から始まったのを記憶しています。説明は無くただ他の人が溶接しているところを見て、見様見真似で始まりました。
溶接の仕組み
溶接とは製品母材がマイナス極(アース)で溶接材料がプラス極(トーチ)その2極の間に電気がプラスからマイナスに流れて光っている現象をスパークと呼び、高温になり母材と副材を溶かします。
そして溶けている中に溶接材料を連続投入していくと溶着金属(ビード)になります。溶接ワイヤー(溶接材料)が溶けて接着剤の役割をしていきます。
溶けたワイヤーが母材と副材を繋ぎ合わせていき、更にプラスで鉄を盛り付けていきます。これが「余盛り」になります。
鉄骨ではこの余盛りが非常に大切になってきます。製品を製作するうえで規定値が設けられています。この規定値のことを「脚長」または、「サイズ」と言います。
板の厚みによって物件ごとに指定があります。脚長が足りていないと余盛り不足と判断して製品として満たないことになります。
各物件ごとに設定値を確認して必要な脚長を確保しましょう。
スパークの強さ・電流/電圧の関係
スパークしている最中の電流(アンペア/A)電圧(ボルト/V)の調整(強弱)が使用用途によって変わります。ザックリ分けると組み立て溶接なのか、本溶接なのかで変わってきます。
組み立て溶接は電流電圧共に低い出力で推移していきます。数字で表すなら240/23(A/V)くらいが僕は好ましく感じます。
本溶接は320/38くらいになるかと思います。この調整は人により変わります。自分の感覚が丁度いい扱いやすい出力があります。この時の調整で電流が強いか電圧が強いかで余盛りの形状も変わってきます。外観的にキレイなビートは比較的電圧高めで溶接が滑らかな感じに仕上がります。
では電流高めだとどうなるか?溶接が盛り上がりやすい(表現が曖昧になってしまいますが、感覚で覚えていくことも溶接に必要なことではあります。)形状になります。
外観がキレイであることは当然製品の良し悪しを判定する要因の一つになります。
その他の判定方法は、溶接の仕方によってはどのように溶け込んでいるかを調べる(超音波探傷検査が一般的)ことが設計図書で定められています。なので、検査で合格するには中身も外見も気にしなくてはいけません。
この中身が検査対象になる溶接が完全溶け込み溶接と呼ばれています。
開先形状(繋ぎたい部分を斜め35度二加工したもの)を溶かしていき2つの材料に間隔(ルート間隔)をあけてその「スキマ」を溶着金属で充填していく。充填している最中に2つの材料を一緒に溶かして全て一体化させる。文で表すならこんな感じになります。
そしてこの完全溶け込み溶接はフルペネと呼ばれています。フルペネが超音波探傷検査の対象になります。
そして、超音波探傷検査のことを「UT検査」と呼ばれています。
UTとは頭文字を取った略で、「Ultra Sonic Testing」のUとTになります。
中身の問題はUT検査で確認になります。検査で不合格になった場合は、その溶接は直さなければいけません。
足し算・引き算
溶接を簡単に表現するならば、「足し算と引き算」に似ています。
溶接ワイヤーを溶かして足していく場合は、足していくので足し算。
では引き算は?
溶接部分をスパークして溶かします。この溶けた部分に圧縮した空気を当てます。この場合は溶かして足すのではなく、ただ溶かすだけの作業になります。
スパークしながら圧縮エアーで吹き飛ばす専用機があります。これが「エアーアークガウジング」になります。
エアーアークガウジングで溶かして飛ばすとは言いましたが、掘り進むイメージになりますね。
ガウジングを使用する際には、大きな音が出ますので耳栓などの防具が必要になります。このように保護具も適正使用で活用していかなければ、最終的には自分が泣くようになります。自分の身は自分で守りましょう。
最後に
感と要領が良いとどんなことをやるにしても有利に働きます。ものの見方や考え方次第ではありますが、技術に近道はないのかなとも思っています。
ただし近道がないのだとしても、遠回りは確実に存在します。遠回りしない道こそが進みたい道であり、距離が比較的短くて済みます。
成長速度が速いのは駆け出しのほうが伸びしろはたっぷりあるので当然何をやっても吸収することが多くあります。少し覚えてくると伸び方がなだらかな登り方になってきますよね。この時こそ自分と向き合うことが必要になってきます。
右肩上がりからの横這い。この横這いは現状維持を指しているかのように聞こえますが、実際のところ衰退を意味することになると僕は考えています。
周りは常に変化をしています。意識して取り組んでいる人はゆっくりでも進歩していきます。
この差に気がついていかなければ確実に衰退の一途をたどっていき最後につまらなくなってしまいます。最後には退場の道が待っているのではないでしょうか。
日々の努力と簡単には言いますが、なかなか難しいと思います。常に自分と向き合って、己の商品価値を高めていける人になりたいと考えています。どうしても成長していかないと面白くありませんからね。
最後までお付き合いいただきありがとうございました。
今回はこれにて失礼いたします。次回またお会いいたしましょう。